忘れていた光景に出会う
もっと見る忘れていた光景に出会う
午前中から降り続いていた雨が、午後になってようやく上がり始めました。
しっとりと濡れた緑が美しく映えるこの日、全国を巡る「おはなし隊」は、石川県小松市立那谷小学校を訪問しました。
同校は、創建1300年という輝かしい歴史を誇る名刹・那谷寺から、歩いてわずか5分ほど。豊かな自然と深い歴史に抱かれた、全校児童28名というこぢんまりとした学校です。
キャラバンカーを降りた我々がまず目を留めたのは、子どもたちのランドセル。なんと児童全員が、学校から貸与されているという大きな熊鈴を揺らしていたのです。
近年の熊騒動以前からの措置だそうですが、地元のお年寄り曰く「この辺の熊はわきまえとるから大丈夫」とのこと。その言葉通り、これまでに人的な被害は一度もないそうです。
そんなお守りのような熊鈴の音を響かせながら元気に過ごす子どもたちの姿に心が和みます。
この学校の子どもたちは、みんな同じ幼稚園から一緒に入学し、そのまま6年間を共に過ごして卒業していくそうです。当然、全員が顔見知りで、お互いのことを知り尽くしています。
その深い絆があるからでしょうか。キャラバンカー見学でも先を争うことなどありません。上級生が下級生を尊重し、本当に仲よく過ごしている姿がとても印象的でした。
■ 響き渡る笑い声と、真剣な眼差し
キャラバンカー見学を終えた後は、いよいよ「おはなし隊」の時間です。床にちょこんと腰を下ろした子どもたちの前に隊長が立つと、みんながキラキラとした真剣な眼差しをこちらに向けてくれます。
今回用意した絵本は次の5冊。『ねこです。』、『おおきなもののすきなおうさま』、『つかまえた!』、『どすこい すしずもう』、『はやくちことばえほん ももも すももも』。どのお話も集中して聞いてくれています。
中でも隊長が、地元の人気力士・炎鵬関の話をきっかけに4冊目の『どすこい すしずもう』の世界へ誘うと、子どもたちは「あ、炎鵬、知ってる!」とひときわ目を輝かせました。
さらに、5冊目の『はやくちことばえほん ももも すももも』では、ページをめくるごとに早口言葉の難易度がエスカレート。隊長がテンポを上げて読んでいくと、子どもたちも負けじと、元気な声で復唱してくれました。その反応は本当に素直で、全員が心からこの時間を楽しんでいる様子が伝わってきます。
その様子を後ろで見守っていた校長先生も、「普段は体を動かすのが大好きなうちの子たちが、こんなに熱心に本を読んだり、じっと聞き入ったりするなんて!」と感心しきり。
■ 「誰も入っていないよ!」最高のフォロー
楽しいおはなし会の締めくくりには、人気キャラクターの「もったいないばあさん」がサプライズで登場しました。
ここで大活躍してくれたのが、6年生の図書委員の3人です。彼らはもったいないばあさんを、控え室からおはなし会場へとやさしく案内してくれました。
初めて見るばあさんに、会場の子どもたちがどよめきます。すると、児童の一人が、無邪気な声でこう質問を投げかけました。
「中には、誰が入っているの?」
その時、エスコート役の6年生の男の子が、すかさず「ばあさんだから、誰も入ってないよ」とフォローしてくれたのです。
下級生の夢を壊さないようにという、お兄さんらしいやさしさと機転が利いたその一言に、その場がとてもあたたかい空気に包まれました。
全校児童が少ないからこそ、上級生と下級生の結びつきは深く、お互いを家族のように思いやっているのでしょう。私たちがいつの間にか忘れてしまっていたかもしれない、大切な共同体の姿がここにあったのです。
■ 訪問を終えて
那谷小学校の子どもたちは、本当に好奇心旺盛で、素直で、そして愛らしいお子さんでした。
彼らと出会い、同じ空間で笑い合えたことは、我々にとっても何物にも代えがたい嬉しく楽しい時間となりました。
雨上がりの空に響いた子どもたちの笑い声と熊鈴の音は、これからもおはなし隊の心に残り続けることでしょう。

